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医学研究所
研究内容とその特色、業績

 医学研究所では、フローサイトメトリーによる細胞分析、染色体・遺伝子検査、電子顕微鏡による超微細構造の観察などを駆使して、造血器腫瘍の診断と治療を支援しています。

 以下の研究成果は、天理よろづ相談所病院血液内科、臨床検査科、病理診断部などとの共同研究で得られたものです。

 

マルチカラー・フローサイトメトリー(FCM)と遺伝子検査を用いた血管免疫芽球性T細胞リンパ腫(AITL)の包括的補助診断

 AITLはT細胞リンパ腫のなかでは頻度の高い病型です。リンパ腫病変は、腫瘍細胞だけでなく多彩な反応性細胞から構成されるので病理診断がときに困難です。近年の研究によって、AITLは濾胞ヘルパーT細胞に由来すること、RHOAG17V遺伝子変異が高頻度に認められることが明らかになりました。

 我々は5人のAITL患者さんからいただいた臨床材料を用いて、マルチカラーFCMとPCRを駆使した解析を行いました。まず、腫瘍細胞ではCD3抗原が欠損もしくは発現強度が減弱していることを見出しました。4例ではCD10抗原の異所性発現を認めました。これらの結果をもとに10色の抗体パネルによるマルチカラーFCMを構築し、腫瘍細胞の割合が2~41%であることを決定しました。

 次にRHOAG17V変異の検出を目的として、高感度なallele-specific (AS)-PCR法を開発しました。本法を5例に適用したところ、4例はRHOAG17V変異陽性、残りの1例は変異陰性であることがわかりました。マルチカラーFCMによる腫瘍細胞の定量的な解析とAS-PCR法による高感度なRHOAG17V突変異解析は、AITLの補助診断として極めて有効です(Tenri Med Bull, 2018;21:90-103. DOI: https://doi.org/10.12936/tenrikiyo.21-010)。

 

骨髄異性性症候群(MDS)に合併する肺胞蛋白症のマクロファージはMDSクローンに由来する

 MDSは造血幹細胞のクローン性の疾患で、血球減少を主な兆候としますが、時に肺胞蛋白症を合併することがあります。

 下図のaは、あるMDS患者さんの骨髄から得られた染色体標本にTCF3/PBX1プローブをハイブリダイズしたFISHで、PBX1の赤のシグナルがder(1)染色体上で3つ連続しているのがわかります。間期核では、赤のシグナルが4個、緑のシグナルが2個認められます。

 bは、この患者さんの肺胞洗浄液のギムザ染色標本です。矢印で示した無構造の物質が認められ、肺胞蛋白症に合致します。一方、細胞成分はリンパ球と肺胞マクロファージです。

 下段のcからfは、この標本にTCF3/PBX1プローブをハイブリダイズしたFISHです。リンパ球(Ly)の核は赤2緑2のパターンですが、マクロファージ(M)の核は赤4緑2個のパターンを示し、3個の赤が近接しています。つまり肺胞マクロファージは骨髄のMDSクローン由来であることがわかりました。

 従って、MDS患者さんの肺胞マクロファージはMDSクローン由来であるために機能が悪く、肺胞サーファクタントのクリアランスが低下するために肺胞蛋白症の発症に至るという仮説が成り立ちます。この患者さんは非血縁者間同種骨髄移植を受けました。これらの貴重な結果はドイツの血液専門誌に掲載されました(Ann Hematol, 2017;96:2141-2143. DOI: https://doi.org/10.1007/s00277-017-3118-3)。

 

フィラデルフィア(Ph)染色体陽性急性リンパ芽球性白血病(ALL)は、分葉核球のBCR-ABL FISHの結果によって予後の異なる2群に分けられる

 Ph染色体は慢性骨髄性白血病(CML)だけでなく成人ALLの一部にも認められますが、Ph陽性ALLにはCMLの急性転化症例が含まれているのではないかと考えられます。我々は急性転化ALLを区別するために、単核の白血病細胞だけでなく分葉核球にもBCR-ABLキメラ遺伝子があるかどうかをFISHで調べました。20例のPh陽性ALL症例を調べた結果、9例が分葉核FISH陽性、残りの11例は陰性でした。つまり、約半数はCMLの急性転化である可能性が示唆されました。

 次に、20例のうち18例はチロシンキナーゼ阻害剤単独または多剤併用化学療法による治療を受けたのですが、分葉核FISH陽性症例は陰性症例と比較して、無増悪生存と全生存が優れていることを見出しました。我々はこれらの結果をスイスの血液専門誌Acta Haematologicaに論文発表しました(Acta Haematol, 2016;136:157-166. DOI: https://doi.org/10.1159/000445972)。なお、下図のFISHの写真が同誌の表紙を飾りました。

 

RANBP2-ALK急性骨髄性白血病の診断と治療

 我々は、ある急性骨髄性白血病の患者さんの白血病細胞の染色体を分析したところinv(2)(p23q13)という染色体異常を認め、この染色体異常によってRANBP2-ALKキメラ蛋白が産生されていることを見出しました(Int J Hematol, 2014;99:202-207. DOI: https://doi.org/10.1007/s12185-013-1482-x)。

 類似の異常は肺癌の一部にも認められ、ALK蛋白のキナーゼドメインを標的としたクリゾチニブという分子標的治療薬がすでに承認されていましたが、急性骨髄性白血病には未承認でした。そこで我々は、病院の倫理委員会の承認と患者さん・ご家族の書面による同意を得たうえで、この患者さんにクリゾチニブを投与しました。その結果、白血病細胞は速やかに減少し、投与開始3ヶ月後には完全寛解状態に至りました。治療開始前には赤血球と血小板の輸血が必要でしたが、治療開始後には輸血の必要もなくなりました。骨髄では白血病細胞が著減し、正常の造血細胞が回復していました。しかし、間もなくALK蛋白のキナーゼドメインに遺伝子変異が生じ、クリゾチニブ耐性になりました。

 我々は、これらの治療経過を、第73回日本癌学会学術集会と第76回日本血液学会学術集会で発表し、海外の専門誌に論文発表しました(Leukemia, 2014;28:1935-1937. DOI: https://doi.org/10.1038/leu.2014.166; Cancer Genet, 2015;208:85-90. DOI: https://doi.org/10.1016/j.cancergen.2015.01.003)。

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